お手伝い

　「アレッ！　ごはん炊けていない！！」

　由佳ちゃんのお稽古がずれ込み、夕食の時間に間に合わないので、急いで帰ってきたら、先に帰っていたお兄ちゃんが夕飯を待っていました。大急ぎでシチューを温め、食卓の用意をし、いざごはんを入れようとしたら、ごはんが炊けていなかったのです。

　由佳ちゃんがスイッチを入れ忘れていたのです。由佳ちゃんの家では、お米を磨いで、ごはんを炊くのは幼稚園年長の由佳ちゃんの役目と決まっていました。元々佳佳ちゃんはお手伝いが大好きで、よくお母さんと一緒にごはん作りをしていたので、年長の夏休みを機に、ごはん炊きを由佳ちゃんの仕事として任してみようと思われたそうです。

　それで由佳ちゃんはごはんを炊く用意をし、スイッチを入れてからピアノのお稽古や塾に行くのが決まりになっていました。これまで失敗したことはなかったのですが、この日はうっかりしていたのでしょう。夕食を待っていたお兄ちゃん、お母さんもびっくり、がっかりしたでしょうが、この時お母さんは、由佳ちゃんの失敗をしかりませんでした。これって、すごいお母さんです。

　お母さんはごはんが炊けるまで、由佳ちゃんが大好きなトランプの７並べをして待っていようと言われました。途中で帰ってこられたお父さんもその話を聞いて一緒に遊んでくれました。やがて、カチャっとスイッチが切れる音がし、ごはんが炊けました。この日の夕食は、皆ウキウキとし、楽しかったですよ、とこれはお母さんから伺った由佳ちゃんのお手伝いにまつわるある日の出来事です。

　お手伝いには、生きていく上で必要なものがぎっしり詰まっています。段取り、工夫、計画、機転、責任感など、どれもプリントでは学べない生きた教材です。由佳ちゃんのお手伝い力、すごいですね。お母さんの見守り力、対応もすばらしいでしたね。由佳ちゃんは、責任感のある子どもに育つでしょう。お母さんが怒らなかつたことで、とてもよい形で由佳ちゃんの身に責任感がしっかりついたと思います。