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はじめての小さな冒険

2020.08.15

 間もなく六歳になる淳くんは、教育熱心なお母さんが敷いたレールの上を真面目に歩んできたので、与えられたものはよくこなせるのですが、依頼心が強く、自分から進んで何かをするということが出来ません。そんな一人っ子の淳くんを、何とかやる気のある逞しい男の子に育てたいとかねがね思っておられたお母さんが、相談に来られました。
 淳君には、お母さんに頼らなくても一人で頑張れるという自信をつけてあげなければなりません。そこで淳くんのお母さんに、はじめての小さな冒険を提案しました。

 私の教室から最寄りの駅に行く道は、川に沿って走っています。道は川の両側にあるのですが、淳くんはいつもお母さんと一緒に歩いています。
 お母さんには、川を挟んだ向かいの道を歩いて駅まで行ってもらうことにしました。先生が橋のたもとまでついて行くと、危険を察した淳君はお母さんの足もとにしがみついて「ぼく、いや」と言ってなかなか離れません。おかあさんも不安そうです。でも先生が、「手をつないで一緒に行ってあげるから大丈夫」と言ってお母さんに歩きだしてもらうと、淳くんもお母さんと別れて歩き始めました。しばらく歩いてから、淳君に「先生見ててあげるから、一人で行けるよ」と言うと、ちょっと立ち止まってから、突然思い切ったように手を振り払って一人で歩き始めました。見ていると、途中から走り出し、結局、駅へはお母さんより早く着いていたそうです。

 これに懲りて、もうしないのではないのではと思っていたのですが、淳君はこれが気に入ったようで、次のレッスンの時には、お母さんと駅で別れて、いつもと違う反対側の道を歩いてお母さんより早く教室へ駈け込んで「ぼく、ひとりで来た」と皆で自慢していました。た。そのうち電車の車両もお母さんと違う車両にのって間違えずに駅で降り、一人で教室まで来るのが当たり前になりました。

 三か月経った頃には、淳君の変化は誰の目にもわかるようになり、幼稚園の先生から「淳君。強くなりましたね」と言われるまでになりました。それ以来、淳君のやる気・自立心は順調に進み、昔の淳君からは想像できない頼もしい少年になっています。

 どんなことからでも、取り合えずやってみましょう。必ず大きな成果に繋がります。同じような例はいっぱいあります。