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正司先生の
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赤ちゃんのすごい能力

2020.07.11

 ようやく寝返りが出来るようになったぐらいの赤ちゃんを、うつ伏せにして、目の前に好きなおもちゃを置くとなんとかそれを取ろうと必死になって手を伸ばし、体を引きずって取りに行きます。生まれてから体を前に動かしたことがないので、最初はもがいていますが、それでも何とかおもちゃに触ろうと渾身の力をふりしぼって5ミリメートル、1センチとじりじり前進してゆきます。5分、10分と時間がたっても諦めません。そして、遂におもちゃに手が届いた時、赤ちゃんは、自分の意志とやる気で自分の欲しいものを手に入れたのです。これが、達成感を味わう瞬間です。

 欲しいものを手に入れたい赤ちゃんは、「やりたい、やろう」という意志だけでがんばっています。「出来ないかもしれない」なんて自分の力を疑っていません。生まれて間もない赤ちゃんが、7~8キロぐらいの自分の体を引きずって一度もやったことのない前進をしようなんて出来るかできないか考えたら、そんなことは絶対出来ません。大人なら、こんな無謀なことは、絶対しませんね。こんなすごい赤ちゃんの能力、これは特別な赤ちゃんだけのものではありません。

 ある時、ダウン症で生まれてから上を向いたまま寝たきりという1歳半の赤ちゃんが来ました。何を見ても興味を示さず、話しかけても反応がありません。レッスンはこちらからの一方通行の働きかけで終わりました。月一回のペースで、3回目のレッスンに来た時も見た目はあまり変わっていませんでしたが、お母さんにうつ伏せにして、目の前の物を取りに行くというプログラムをしてみましょうかと提案しました。無謀すぎると思いましたが、お母さんがしてみると言われたので、赤ちゃんをうつ伏せにしました。赤ちゃんは何事が起ったのかわからず、体が硬くなっていました。


 お母さんに「好きなおもちゃはありますか」と聞くと「ずっと上を向いているだけなので、下に置いてあるおもちゃを見たことがありません。好きなおもちゃは無いですね」と言われました。その時、ふと前回のレッスンで紐通しをして見せていた時、紐があちこち動くのを目で追っていたのを思い出し、紐を数本丸めて前に置きましたが、なかなか気づきません。しばらくして気づいたようですが、5分たってもじっとしたままです。それでも待ち続けました。足の先がピクリと動きました。
 しかし、それっきりです。何の保証もないのに、お母さんに待ってもらえるかどうか、と思っていた時、手の甲がピクリと動きました。表面には現れていないけれど、全力で自分の筋肉を動かそうと渾身の力を振り絞って頑張っているのが伝わってきました。背中もピクリと動きました。手・足のピクリが大きくなり、ほんの少しですが、体も揺れだしました。腕を前に出してあげると、腕にも少しずつ力が入るようです。紐のボールを手の先2~3センチのところにおきました。手の先が1ミリ5ミリと伸び、遂にボールにタッチ出来ました。

 始めてから、30分以上時間が経っていました。お母さんは涙ぐんで喜んでおられました。強い意志とやる気が常識では考えられないすごい事をやり遂げたのです。周りの人が何も出来ないと思い込んでいた赤ちゃんがこんな力を持っていたのです。

 このようにどの赤ちゃんも力強く生まれてきているのに、どして困難なことや、新しいことに挑戦出来ない子ども、やる気のない子どもになってしまうのでしょう。

 私の教室では、達成感を味わう練習は生まれた時からと伝えています。親は色々工夫して子どもの達成感を味わう場面を用意することが出来ますが、親が出来るのは、そこまでです。実行するのは、子どもです。親の役目は子どものチャレンジを見守ることです。出来たら、思いっきり褒めて上げて下さい。